ヒトの動きは、頭を掻いたり目を擦ったりするような小さな動きであれば、中枢部を安定させ、四肢を分離した必要最低限の動きで行われます。
しかし、より大きな動きや粗大でダイナミックな動きに関しては、中枢部も含んだ、より複合的で統合された動きとなります。
これは、特に水泳や球技などの全身性のスポーツ動作や、日常の立ちしゃがみのような全身が関与する動きに見られます。
歩行でも、動きは中枢から始まり、その動きをタイミングよく遠位に伝えていきます。
これらは力の伝達であり、力学的ストレスは集約せず放散されていくか、より安定した部位で受け止めていきます。
このように、中枢と四肢は連動し、より負担の少ない動きを行っています。安定性は固定性とは同義でないことに注意が必要です。柔軟性を伴う安定性が本来の姿です。そのために、深層筋群の活性化など、ピラティスの基本原則の様々な要素が必要となります。
ピラティスのエクササイズでは、はじめは安定性を重視し、背骨の伸長と体幹の制御を行います。その後、安定性が確保されれば、より中枢部への負荷を高めつつ安定性を確保した状態から四肢を様々に動かす複合的な動きを取り入れたり、中枢部も安定させたまま積極的に動かすことによって、よりダイナミックな動きを行うようにしたりして、運動の統合を行っていきます。この時には、呼吸の重要性がさらに強調され、呼吸のリズムを活用しながらダイナミックな動きを誘導していきます。
統合の段階は、ピラティスでは最終的な段階であり、効率的で滑らかな動きが目標となります。
場合によっては、スポーツに匹敵するレベルのパフォーマンスを行うこともあります。高いレベルのエクササイズまで行うことで、本来持っている人間の能力を最大限に発揮させます。
私たち人間は、日常の限られた活動範囲の中で、本来持っている潜在的な能力を使わずにいます。
これは、日常生活のみでは、人間としての能力が後退していくことを意味しています。
ピラティスでは、スポーツを行っていない人の能力も高いレベルまで引き上げることで、日常での活動負荷に対する余裕をつくることができます。はじめに高いレベルのエクササイズをみると、自分には無理ではないかと思いますが、基本原則を一つ一つ練習し獲得することで、徐々に無理なく行えるようになっていくところが面白いです。
ピラティスは、急性期など患部の安静が必要な時期に、安定性を強調するエクササイズとして用いることもできますが、動きの統合が必要なスポーツやダンスのために、より高度なエクササイズとしても用いることができます。