「食塩を摂りすぎると高血圧になる」は本当か

ある県の知事が、高血圧が原因で亡くなりました。すると、その県全体に「食塩の摂取量を減らしましょう」という勧告が出されたことがありました。いったい、知事個人の病気と県民の食生活にどれだけの因果関係があるというのでしょうか。
いくら地方行政のトップだからといって、その地方に暮らす人間の体質まで代表しているわけがありません。この勧告は明らかに過剰反応であり、大抵の人はバカげたことだと思うでしょう。

しかし、本当にあなたはこの話を笑えるでしょうか。
もし、知事の死はともかくとして、この県が現実に高血圧患者の多い地域だとしたら、どうでしょう。
多くの人は、この勧告が的を得た正しいものだと思うに違いありません。「高血圧になったら塩分を控えないといけない」という「医学常識」が頭にインプットされているからです。

ですが、この話がいちばんおかしいのは、行政が過剰反応を起こした点ではありません。
「食塩を減らせ」という勧告の内容そのものが、とんだお笑い草なのです。
基本的に、高血圧と食塩摂取量とのあいだにはほとんど因果関係がありません。
ところが実際には、高血圧の患者に対して、たいていの医師が「塩分を減らしてください」と指示しています。
そういう医師には、この県が出した勧告を笑い飛ばす資格はないのです。

たしかに、食塩の過剰摂取が原因で高血圧になる人はいます。ただし、それが原因になっているケースは、高血圧患者100人のうちたった一人か二人という割合なのです。明らかに、少数派なのです。
食塩に含まれるナトリウムは、体内に水分を保持させる働きをしています。その濃度が高くなると体液が増え、その結果、血管を通る血液の量も増えて血圧が高くなるのは事実です。しかし、高血圧の原因は決してそれだけではありません。

にもかかわらず、画一的なマニュアルに沿った治療しかしようとしない医師は、すべての高血圧患者に減塩を指示します。しかし、そのマニュアルが有効な患者は全体の1〜2%に過ぎません。残りの98〜99%には効果がないどころか、逆に必要な塩分が不足して健康を損ねてしまう恐れまであります。

それにしても、これほど間違いが明白な治療法が、なぜ「医学常識」となってしまったのでしょうか。誰でも疑問に思うでしょう。その疑問を解くためには、「疫学」という学問の限界について話しておく必要があります。

高血圧に関する「食塩原因説」は、疫学によって導き出されたものです。病気の原因解明の手続きとして、まず疫学によっておおよそのあたりをつけるという方法があります。疫学は地域や職域などを限定して、年齢、学歴、食生活、生活習慣、職業などの違いによって、病気の発生率にどういう分布の違いがあるかを調べます。統計から病気の原因を考えるわけで、ある意味では消費者を分類して販売戦略を立てるマーケティングに似た手法といえるかもしれません。

しかし、この手法には大きな落とし穴があります。ある病気が特定のグループに多く見られるからといって、そこに確実な因果関係があるとは限りません。
たとえば1981年にアメリカ政府は、疫学の統計を根拠にして「エイズはホモセクシャルの病気である」と発表しました。エイズの分布が、ホモセクシャルの人々に偏っていたためです。しかし今では、エイズが誰でも感染しうる伝染病であり、ホモセクシャルだけに特有の病気でないことは誰もが知っています。

これが疫学の持っている限界です。
統計的なデータというのは、見方によって引き出される結論が違ってきます。
しかも、研究者は統計から何か結論を引き出そうという思いが強いため、自分の仮説を支えてくれる都合のいいデータだけを採用し、都合の悪いものを無視することが珍しくありません。
したがって、疫学調査だけで病気の原因を確定することはできないのです。
科学的な実験による裏付けがなければ、仮説はどこまでいっても仮説でしかありません。

 

 


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