アルコールの適量はあるか

ナイアシンの働きは、その補酵素としての本質からすれば、ビタミンと同じです。
したがって、栄養学で扱う時、ナイアシンはビタミンの仲間に入れられます。これをなぜビタミンB〜としないかというと、それが自前でつくれもするからです。
ビタミンという呼称は、それが自前で合成できない、ということなのです。

アルコールの薬物代謝の最大の鍵がナイアシンだとなれば、誰でも十分なナイアシンさえあれば、悪酔いはしないか、というと、そうでないことは、私たちが日常経験するところです。酒に強い人もいて、弱い人もいます。そしてまた、若いうちだと、弱い酒もだんだん強くなります。
これはいったい、どういうことなのでしょうか。

ナイアシンには、非常に多くの用途があります。
多方面の代謝に、補酵素としての役割をもっているのです。

常習的に酒を飲んでいると、ナイアシンがアルコールの代謝に優先的に使われるようになります。
他の色々な代謝を犠牲にして、です。

ですから、酒浸りの人の体では、どこかの代謝が、いつも後回しになっている、と考えられます。
もちろん、それは量と無関係ではありません。
適量というものが、体の仕組みから自然に決まってきます。

『薬物代謝と作用点』によれば、肝臓におけるエタノール分解速度は、平均毎時8gです。そしてこれは、ウイスキーなら25ml、日本酒なら70ml、ビールなら200mlほどに過ぎません。これを超えるペースで飲むなら、アルデヒドがたまり、酔いは進行する。そしてこれが、当たり前のことのようです。

短時間でビールを一本飲むと、1時間たっても、眼球の運動にアル中の特徴が現れ、とてもしらふの状態には戻らない。これは酒に強い人でも弱い人でも違わないといいます。

『食品と解毒の科学』のなかで、ラットにエタノールを飲ませる実験を紹介しています。これによると、アルコールに慣れたものも慣れないものも、これを二酸化炭素にまで分解する時間に差はありません。慣れたラットでは、アセチルまでの分解時間が短いのです。

アルコールを続けて飲んでいるラットでは、アルコール脱水素酵素がだんだん増え、アルデヒドまでの代謝はスピードアップされます。これとともにアルデヒド酸化酵素も増える結果として、アセチルまでの代謝が促進され、「酒に強くなった」ことになるのでしょう。

酒に強い人は、アルデヒドからアセチルへの代謝も滞りがないので、すぐには酔いません。
しかし、肝臓に脂肪がたまる、いわゆる「脂肪肝」は、酒に強くなった時点から始まる、といわれています。
その脂肪は、主として肝臓以外の組織に貯蔵されていたものが、移動してきたのだといいます。

クレブスサイクルとは、高エネルギー分子ATPをつくる作業の名ですが、アルコールを飲むと、クレブスサイクルの回転が遅くなります。
それで、ATPの生産量が低下する結果、アセチルがクレブスサイクルに入ることができず、脂肪合成コースに入る一方、一部はアセトン体になります。

アセトン体は、重症糖尿病患者の血中に存在する物質です。
深酒をしたときの体の状態は、重症糖尿病の状態と共通点をもっています。
アセトン体は体液を酸性に傾け、多くの代謝を阻害します。

酒を飲むと血中の中性脂肪が増えます。これも、アセチルからきたものでしょう。
これについてもこのような実験があります。

食前に、150mlのウイスキーを1時間かけて飲んで、6時間後に中性脂肪値を検査してみたら、飲まない場合と比べて二倍になっていた。このとき高脂肪食をとると、低脂肪食の場合と比べて、中性脂肪値はまた二倍に跳ね上がった。心筋梗塞は、こんなときに起きると、『食品と解毒の科学』に書いてあります。
男性で中性脂肪値の高い人は、大抵は酒飲みだ、といわれています。また、毎日のように160gのアルコールをとっている人の肝硬変になる率は、極めて高い、といわれています。

酒飲みの肝硬変は、まず脂肪肝の形をとります。
脂肪肝は酒に強い人のものですから、肝臓は、その持ち主が酒に強いのを自慢するのを、苦虫を噛み潰して聞くことでしょう。

アルコールもしくはアルデヒドの害は、肝臓だけが被るのではありません。
東京済生会中央病院に担ぎ込まれた酔っ払い88名を対象にした研究データが面白いです。その人たちはすべて、日本酒にして900ml以上を毎日飲んでいました。これの血液検査をしてみたのです。
正常人の赤血球数は、100mlあたり500万個ですが、350万個以下の人が41%もいました。
また、血小板の数が正常人の半分以下の人が70%もいました。
しかし、血液中の鉄の量は正常人の二倍近くもありました。

これらの数字は、貧血を示し、アルコールが造血機能を阻害することを裏付けています。
赤血球が十分につくられないものだから、鉄が余って血液中に遊んでいるわけです。

酔っ払いに見られる知能低下や運動障害は、慢性アルコール中毒、すなわちアル中になると定着します。

知能や運動の障害は、その人だけのものですが、これが子に及ぶとなると、親の責任は重大です。
女性が一日145g以上のアルコールをとっていると、正常な赤ちゃんの生まれる率は、たったの2%しかないそうです。
異常児が欲しくないのなら、妊娠中は酒を断つことが必要だといいますが、これを筋違いの意見とする人はいないでしょう。

肝硬変はともかく、いわゆるアル中にならずに済むための「適量」について、一致した見解はありません。
フランスでは、重労働者の場合にはワインで1ℓ(アルコール85g)、室内作業者の場合には0.5ℓが適量、イギリスでは50%ウイスキーで3オンス(アルコール34g)が適量とされています。
日本人の適量は、清酒一、二合とする意見があり、これは、アルコールにして20〜40gとなります。また、別の意見では、日本人の適量を、アルコールで25g以下としています。これは、清酒なら約一合、ビールなら大瓶一本、ウイスキーなら水割り三杯、ということになります。

これよりたくさん飲むのを常習とする人は、清酒なら10年、洋酒なら3〜5年でアル中になると覚悟するのがよいようです。

もう一度、酒に強い人、弱い人の問題に戻りますが、これについては、日大とベルリン大学の共同研究があります。

アルコール代謝の第一段階に登場するのは、前にも述べた通り、アルコール脱水素酵素です。
ところがこれには、活性の違う三種のものがあります。
その三つの酵素をもっている比率には、民族差もあり個体差もあります。
活性の高い酵素をたくさんもつ人は、アルデヒドがどんどんできてくるので、酔いが早くまわるわけです。

その調査によると、日本人では、活性の高いアルコール脱水素酵素をもつ人は82%もいます。
つまり、日本人には酒に弱い人が多いことになります。
これがヨーロッパ人となると、5〜20%しかない。
ヨーロッパ人は、悪酔いをする人が少ないわけです。

最後に酒のメリットをあげることにします。
酒のありがたみについての意見は、海外に多いです。
アメリカの老人施設での実験例が以下です。

ある老人ホームでは、老人病患者を二群に分け、一方にはワインを、他方にはグレープジュースを与えてみました。
すると、グレープジュース組は、相も変わらぬ仏頂面を続けましたが、ワイン組は目に見えて人付き合いが良くなりました。

また、別の老人ホームでは、一日一本のビールを与えることにしました。
二ヶ月後の成績をみると、尿の失禁者が半数以下に減り、起きて歩けるようになった者が三倍に増えました。

これもアメリカの話ですが、ある小さな町で、心筋梗塞および脳卒中と食事との関係についての追跡調査が、18年間にわたって続けられました。
その結果、適量のアルコールには、これを予防する効果のあることがわかった、といいます。

結局、酒は百薬の長にもなり、自殺の手段にもなる、ということでしょう。
要するに、問題は量にあることを強調しておきます。


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