筋肉ビタミン

ビタミンE欠乏食を与えられたウサギは、「筋ジストロフィー」を起こして、三週間以内に死んでしまいます。ジストロフィーとは栄養障害の意味です。ところが、それにセレンを与えると、この病気は起こりません。これに相当する実験が人間について行われたわけではありませんが、ここから人間の場合を類推することは許されるでしょう。

ウシの幼動物には、先天性筋ジストロフィーがみられます。それにビタミンEを投与しても、大きな改善はみられません。ここにさらにセレンを加えると、多少の好転をみることができます。

筋肉を働かせるためのエネルギーが、ATPから供給されることは、いうまでもありません。そのATPをクレブスサイクルによってつくるのには、若干の時間がかかります。そのために筋肉では、「クレアチンリン酸」という、一瞬のうちにATPを発生する物質をもっています。

もちろん筋肉はATPの貯蔵もしていますが、その量は、筋肉の要求を二分の一秒程度しかまかなうことができません。ところが、クレアチンリン酸の貯蔵量は、この4~6倍のATPを発生させるに足ります。

前記のウサギの実験を考えてみると、クレアチンリン酸は、おそらくビタミンEと結合して貯蔵されていると想像されます。ビタミンEがなかったら、クレアチンリン酸は、筋肉中に保持されないのでしょう。ビタミンEが欠乏すれば、人間の場合、クレアチンリン酸は尿中に見出されるのです。そこで、筋肉にとってのビタミンEの存在価値を、これによって説明することができるのです。

動物実験によれば、筋ジストロフィーに対するビタミンEの予防効果は、セレンの存在下でないと期待できないといわれます。

筋肉の微細構造を見ると、「筋繊維」が、「筋原繊維」の束でつくられており、筋原繊維のなかには、アクチン・ミオシンの二種のタンパク質の「フィラメント」があります。そのフィラメントの酸化を防ぎ、かつ滑りをよくするためでしょうが、そのまわりにはレシチンがあります。レシチンには、材料としてコリンが含まれています。

筋肉細胞では、ATPを小胞体内に導く役目をつとめるのがマグネシウムイオンです。

また、アクチンとミオシンとの間に滑り込み運動が起こるとき、カルシウムイオンがアクチンに結合します。この結合を媒介するのはマグネシウムイオンです。滑り込みによる収縮が解除されるとき、カルシウムイオンは小胞体に戻ります。筋肉の運動では、カルシウムイオンが小胞体に出入りすることになります。

「骨格筋」は紡錘形をつくり、その両端が「腱」と呼ばれる特別な組織になっています。この組織の正常化のためにはビタミンPがなくてはなりません。ビタミンPには、毛細血管壁の透過性を抑制し、タンパク質などの漏失を防ぐ作用があります。腱に対する効果がこの作用で説明されるかどうかはわかりません。アメリカでは、フットボールの選手がビタミンPを用いて「捻挫」を防ぐ習慣ができています。

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→ビタミンE、ビタミンP、コリン

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→セレン、マグネシウム、カルシウム