減食なしで痩せる方法

肥満というのは、筋肉が太ったのでもなく、骨が太ったのでもなく、皮下脂肪が厚くなっただけです。ですから、皮下脂肪さえ減らすことができれば、目的は達せられるのです。

顔でも足でも、どこを見てもそうですが、皮下脂肪はそこに居座っている感じです。しかし事実はそうではなく、皮下脂肪もまた、分解し、新しいものがあとを埋めるのです。この回転はのんびりしたものではなく、ラットの実験では半減期が2~3日しかありません。2日か3日のうちに、半分が新旧交代を終えるというのですから、かなりのスピードです。

脂肪組織のなかの脂肪は、いわゆる中性脂肪で、一分子のグリセリンに三分子の脂肪酸が結合した形のものです。脂肪酸にはいろいろありますから、中性脂肪の種類は莫大なものになります。その脂肪酸のうち、わたしたちにとって特に重要なものはリノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸の4種です。これは、細胞膜をつくるリン脂質(レシチン)や糖脂質の材料として不可欠のものです。そしてまた、プロスタグランジンと呼ばれる局所ホルモンの材料になるものもあります。しかも、ほかの脂肪酸なら体内で合成できますが、これは、それができず、不可欠脂肪酸、必須脂肪酸などと呼ばれています。うまくできたもので、脂肪の代謝回転が早いといっても、リノール酸などの不飽和脂肪酸に限って、とても遅いのです。必須脂肪酸がさっさと壊されては、たまったものではありません。

アラキドン酸やエイコサペンタエン酸は植物性脂肪には含まれていません。

からだと同じ物質をつくる代謝を同化、からだをつくる物質をこわす代謝を異化といいます。
脂肪組織で、異化と同化がバランスしていれば、肥満状態が定常化していることになるわけです。ということは、やせたい人は、脂肪組織の異化を同化よりも優勢にすればよい、ということになります。

脂肪組織の異化では、脂肪酸が発生します。そしてこれは、人体のエネルギー源として最大のものです。ですから、エネルギーを使えば、脂肪組織の異化が高まるわけです。それで、ウェイトトレーニングとかマラソンとか、エネルギー消費の大きい作業がやせる方法といわれることになるのです。

しかし、脂肪を1キログラム減らすためには、東京から静岡まで歩かなければならないと聞いたら、がっかりする人が多いだろうと思います。運動で体脂肪を減らすのは、生易しい計画ではないことがおわかりでしょう。

わたしたちのからだのエネルギー消費は、筋肉の運動によってだけ、起こるのではありません。消化液をつくるのにも、消化をするのにも、神経が信号を出すのにも、からだのなかの出来事で、エネルギーを必要としないものは一つもありません。べつにスポーツをやらなくても、脂肪の異化は間違いなく進行します。ですから、異化のスムーズな進行を図ることと、脂肪の原料を摂るのを控えて、同化レベルを下げることを考えればよいのです。

脂肪組織の脂肪の原料には、脂肪酸もありますが、主としてブドウ糖が使われます。ですから、糖質を控えることです。それでは減食じゃないか、減食は御免だとおっしゃるかもしれませんが、糖質のかわりにタンパク質を摂ればよいのです。

アルコールには、糖をエネルギー化せずに脂肪化する作用があります。したがって、お酒を嗜むときには、とくに糖質を遠慮することです。

すべての代謝は酵素の仲立ちによって行われますが、酵素はタンパク質であって、タンパク食品を原料としてつくられるものです。脂肪の異化という代謝にも、酵素、すなわちタンパク質がなければならないのです。そういうわけで、糖質をタンパク質にかえれば、べつに減食せずにやせる方向への動きがでてくるはずです。

しかし、もし、なにがなんでも痩せたいと思うことがありましたら、次の方法をお試しになるべきです。

タンパク質だけを、1日に体重の1000分の1だけ摂ります。そして、天然塩を5グラムほど摂ります。そのほかの口に入るものは、水だけとします。

これを実行すれば、脂肪は異化専門ですから、体脂肪はどんどん減ります。ただし、脂肪組織の細胞は、脂肪球という名の大きな玉をかかえこんでいて、脂肪が分解してできた水が、替え玉になって球形を保つ傾向があります。その水がうまく排除されるまで、体脂肪は減らないわけです。

ですから、この規定食をはじめたら、すぐに体脂肪が減ると思っては間違いです。

なお、ここで天然塩を摂るのは、減食をすると、塩分が排出されて、それの欠乏状態に追い込まれるからです。塩分が欠乏すると、まず無気力になり、尿量が減ってきます。

それから、タンパク質の必要量をどうやって摂るか、という問題が残りました。わたしたちの日常の食事だと、お腹いっぱい食べても、これだけの量のタンパク質が摂れない場合が珍しくありません。そこには、抱き合わせで、かなりの量の糖質や脂肪が入ってくることを免れないのです。

ここで、プロテインがものをいう番がきました。プロテインは食品から脂質や糖質の大部分を除去してありますから、純粋にタンパク質だけを摂る目的にかないます。プロテインは、1グラムにつき4カロリー前後の熱量しかもっていません。
これでタンパク質はいくら摂れるかというと、プロテインの質によって大きな開きがあります。
また、プロテインを摂るために味付けをするのは構いませんが、やせるための処方と考えれば、糖分の量を調味のための最低限にとどめるのがよいと思います。

それから、ビタミンCは一緒に摂ったほうがよいと思います。というのは、この規定食では、ある程度の空腹感が避けられず、それがストレッサーになります。ストレスが起きると、体タンパクの分解がはじまって不利な条件を生むからです。そして、ビタミンCには、ストレッサーに対抗する働きがあるので、これを一緒に摂ることには重要な意義があるのです。

ここでいちばん気になるのは、空腹感の問題です。苦しくなった人は、高タンパク食になにかを適当に追加していただきましょう。やせる方法の大原則が、タンパク質と糖質との比の値を大きくすることにあることを忘れないでください。

なお、代謝性肥満といって、エネルギーを糖にもとめず、主に脂肪にたよるタイプの人が痩せるためには、糖分を完全にカットする必要があるでしょう。