関節の老化は防げる

変形性関節症という病気があります。
この病気は、読んで字のごとく関節の形が変化する病気です。その変形は、はじめからあるのではなく、関節をつくっている骨の端をカバーする軟骨に異常が起きる頃からはじまります。

軟骨が、弾力を無くして潰れたり傷ついたりすると、関節を動かす時にいつもとは違う刺激が硬骨に伝わります。その結果として、硬骨の組織が異常な増殖をはじめ、骨が大きくなったり棘を生やしたりして、変形を起こすことになるのです。ですからこれは、あくまでも原因が軟骨の変性にあるわけで、軟骨の病気なのです。

変形性関節症は、体重のかかるひざや腰に起きやすく、その痛みはいわゆる「運動痛」ですから、関節を動かす時に痛みが起きます。

しかし、膝関節の軟骨に変性が起きたからといって、その日から運動痛がはじまるものではありません。その人は、潜在性の変形性膝関節症患者になったのです。潜在性の患者は、18歳からみられるそうです。

潜在性のものをいれると、変形性膝関節症患者は、60歳では80%、80歳では100%とも言えるほどだそうです。

変形性関節症の症状としては、動かし始めの痛み(いわゆるスタートペイン、初動痛)、動かさない時の関節のこわばり、天気が悪い時の関節痛などがあります。

医師は、変形性関節症の患者に対して、不必要な歩行や階段の昇降はなるべく控えるのがよい、と指導します。

しかし、これを真面目に守ると、筋肉が弱くなるために関節が不安定になるので、かえって症状が悪化する恐れがあります。
結局は、栄養条件の改善のような対策をとるのが賢いでしょう。

変形性関節症患者の「関節腔」を調べてみると、ヒドロキシアパタイトや、これによく似たカルシウム塩の微結晶が観察されることがあります。このかたい鉱物質の砂があるために「関節軟骨」が動くたびにこすれて、かなりの刺激を受け、または傷をつけられたりすることが十分考えられます。

関節腔にカルシウム塩の微結晶ができたわけは、カルシウムパラドックスによるものと考えられます。

関節が刺激されると、滑膜などからタンパク分解酵素のような軟骨を破壊する酵素が出てきて、炎症を起こしながら軟骨組織をとかします。軟骨は、すり減るというより、とけるのです。そして、それは液状になります。

関節に水が溜まる、というのがこれです。また、この時の痛みは、炎症からくると言われています。

股関節の場合も、膝関節と同じように、関節軟骨の破壊が起きるとみてよいのです。股関節の欠損では、大腿骨頭のところで骨が欠損しています。この部分は、相手の骨とじかに擦れ合うので、それによる刺激を相当受けているはずです。骨頭の両側に棘のようなものが出来るのは、その刺激によって骨芽細胞が激しく活動して、骨頭の両側に骨を増殖させるためなのです。

ところで、関節には、それを包む「関節包」があります。同じひざの痛みでも、変形性関節症とリウマチとがありますが、変形性関節症が軟骨の病気であるのに対して、リウマチは関節包と滑膜の病気ですから、両者は全く違う病気ということになります。リウマチは変形性関節症よりはるかに稀な病気です。

軟骨は、その字の通りやわらかい骨です。それはゴム風船のように、押せば潰れ、押すのをやめれば元の形に戻る性質をもっています。それは、どういうわけなのでしょうか。

硬骨はタンパク質と鉱物質とからできています。コラーゲンとヒドロキシアパタイトから、といえばより正確になります。そのアパタイトが硬いものだから、硬骨の名にふさわしい組織をもつことになりました。

軟骨には、このアパタイトがないのです。ただし、コラーゲンはあります。そして、アパタイトのかわりに「粘質多糖体」というものがあるのです。これは、その名前の通り、ねばついたものです。なぜねばつくかというと、多糖体の分子がびっしり密生していて、その狭い隙間に入り込んだ水が、どうにも動けない状態になっているからです。粘質多糖体の分子は、ごちゃごちゃに枝分かれして絡み合っています。

私たちは、脱脂綿が水をたっぷり含んでくれることを知っています。その水は動けるので、ぎゅっと絞れば脱脂綿のかたまりはずっと小さくなります。それでもまだ水は残っているので、洗濯機の脱水機にかければ、もっと小さくなります。こうなると、動く水はもうほとんどありません。綿の繊維にへばりついた水が残っているだけです。この脱脂綿のかたまりを引っ張ってみると、ねばった感じがするでしょう。

軟骨の場合、粘質多糖体は三種類あります。どれも鎖状の分子ですが、一番長いのが「ヒアルロン酸」、次に長いのが「コンドロイチン硫酸」、一番短いのが「ケラタン硫酸」です。そしてその三つは、寄り集まってひとつの構造をつくっています。

ヒアルロン酸は、木の幹のように伸びています。そして、その幹から「コアタンパク」という名のタンパク質の鎖状分子が、一定の間隔をおいて横に枝のように突き出しています。そのコアタンパクの枝には、針葉樹の葉のように、ケラタン硫酸の鎖状分子とコンドロイチン硫酸の鎖状分子とが生えています。ただし、枝の付け根には短いケラタン硫酸の葉っぱばかりですが、少し先へ行くとケラタン硫酸分子と長いコンドロイチン硫酸分子とがかわりばんこになっています。それからまた、一本一本の枝を幹につなぐところには「連結タンパク」の分子があります。

コアタンパクの枝に多糖体の葉を生やしたものを、「プロテオグリカン」といいます。
ヒアルロン酸一分子につくプロテオグリカンの数は、140本ぐらいだそうです。そして、ここにあげた何種類かの分子が揃うと、大きな分子が自然に組み立てられるのだそうです。ジグソーパズルを組み立てるような具合だといってよいでしょう。

このような過程には「自己組織化」という名前が付いていますが、生物の体はこんな具合に組み立てられている、と考えられているのです。白血病や悪性貧血の治療にはよく骨髄移植が行われますが、このとき、採取した骨髄を静脈に注射すると、それは間違いなく患者の骨髄へいくのです。これを「組織特異性」といいますが、これも自己組織化のひとつだと言えるでしょう。

ヒアルロン酸の幹にプロテオグリカンの枝が生えた巨大分子の名前は、「プロテオグリカン集合体」です。軟骨には、このプロテオグリカン集合体が、コラーゲン分子に結合した形でたくさん含まれています。

はじめに、変形性関節症が軟骨の変性からくると書きましたが、この変性とは、プロテオグリカン集合体が壊れたり、その分子数が減ったりすることなのです。

軟骨の構造を大雑把にみると、ヘチマのたわしの隙間にこんにゃくを入れたようなものだと言われます。ヘチマの筋にあたるものがコラーゲンで、こんにゃくにあたるものがプロテオグリカン集合体です。この構造によって、軟骨はゴム風船のようだと言われているのです。そして、ここでのプロテオグリカン集合体は、たっぷり水を含んだ状態にはないのです。

また、軟骨の表面はでこぼこで、へこんだところに滑液に含まれるヒアルロン酸が入り込んでいます。そのために、関節では軟骨が他の骨とじかに擦れ合うことがないのです。この軟骨の構造や形が不完全になると、表面のでこぼこがひどくなって軟骨がじかに擦れ合うので、動くたびに硬骨の骨芽細胞が刺激され、硬骨が増殖して変形を起こします。

変形性関節症の引き金は、軟骨の表面に近い部分のヘチマの筋、つまりコラーゲンが壊れてこんにゃくが抜けることだろう、と言われています。すると、締め付けられていたこんにゃくが膨れ、つまりプロテオグリカン集合体がたっぷり水を吸い込んで膨張して、全体がやわらかくなるので、軟骨が強度をなくすことになるでしょう。この状態で関節が動けば、軟骨が元の形を保つことができなくなるのは、当然ではないでしょうか。

ところで、健康の自主管理を問題にする人は、プロテオグリカン集合体がおかしくなるのに抵抗するにはどうしたらよいか、プロテオグリカン集合体をつくるにはどうしたらよいか、その方法を知りたいと言うに違いありません。

それには、まず材料をととのえる必要があります。タンパク質・糖質が材料であることは確かですから、低タンパク食ではいけません。また、硫酸の原料になる含硫アミノ酸も欠かせません。含硫アミノ酸を多く含む卵のようなタンパク質が、第一に考えられるはずです。とはいえ、このような材料が揃えばそれでよい、というものではありません。多糖体をつくるのにビタミンAが必要であるというような、合成の問題があるからです。

このビタミンAには、成長ホルモンの合成にあたっても役割があります。プロテオグリカン合成を成長ホルモンが促進する、という事実も見逃すわけにはいきません。また、ヒアルロン酸を分解する「ヒアルロニダーゼ」の活性がビタミンCによって抑制される、という事実もあります。

ここに書いたビタミンの問題をまとめると、プロテオグリカン集合体をつくるためにはビタミンA、プロテオグリカン集合体をまもるためにはビタミンC、ということになります。高タンパク食を土台にしてビタミンのAとCとを摂っていれば、変形性関節症にならずに済むということ、もしこれにおかされたら、これらの栄養素を十分に摂ることを心得ておきたいものです。この病気は老化によるものではありませんから、本当ならばかからずに一生をおくることのできる病気である、と言えます。

さて、「椎間板ヘルニア」や「ぎっくり腰」は、私たちが普段よく耳にする病気です。椎間板は軟骨の仲間ですから、これも軟骨の病気ということで、変形性関節症に縁の近い病気といってよいでしょう。

ただし、椎間板は、他の軟骨と違って、ヒアルロン酸をもっていません。ですから、椎間板では、プロテオグリカンが集合体にならずにばらばらになっていることがわかります。

プロテオグリカン集合体が水を含んで粘性をもつのは、ヒアルロン酸のせいでなくプロテオグリカンによるのですから、椎間板もやはり風船のような力学的性質をもつはずでしょう。ですから、椎間板の管理上の注意点は、プロテオグリカン集合体の場合と同じでよいことになります。

なお、骨折が起きた場合、その隙間には、まず軟骨がつくられ、それができたところにカルシウム沈着が起きる、という順序で修復が行われます。ですから骨折の時には、プロテオグリカンのためのビタミンAが必要になります。また、電気をかけてやると修復が促進されるという報告もあります。

もうひとつ、膝関節が変形すると「O脚」になります。

ところで、老化の犯人は活性酸素ですが、自然老化でない場合でも、そういうことなのでしょうか。

変形性関節症や椎間板ヘルニアなどの自然老化でない場合には、ここにあげたような栄養物質の不足をあげる必要もありますが、活性酸素の影響も見逃すことはできません。ヒアルロン酸は活性酸素にやられやすいので、変形性関節症ではこれが問題になってきます。

活性酸素の発生する機会としてここにあげられるのは、炎症や感染だと思います。ですから、こんな時にはさっそく対策をとるべきですが、そこに活性酸素への抗酸化物質を加えなければならないでしょう。

もうひとつの加齢に伴う変化、つまり自然老化現象として、プロテオグリカンをつくる三種類の粘質多糖体のうち、ケラタン硫酸が増えてコンドロイチン硫酸が減るという事実があります。ケラタン硫酸はコンドロイチン硫酸よりずっと分子が小さいので、結局、プロテオグリカンの保水量が少ないことになります。ですから、歳をとるにつれて、軟骨の弾力が弱くなると考えてよいと思います。これは真の老化のようです。

真の老化であれば、人間の力ではどうにもならないことになるでしょう。しかし、これの対策として、ビタミンAの大量投与が考えられます。コンドロイチン硫酸の合成には、ケラタン硫酸の合成より、ビタミンAに対する要求量が多いかもしれないからです。