日焼けと酵素的生化学反応

昔、新陳代謝という用語がありました。陳は陳腐という熟語から察せられるように、古いことを意味します。新陳代謝とは、新しいものが古いものと交代する過程をさしています。

戦後、新陳代謝は、物質代謝または物質交代と改められたのです。どっちみち、これは物質過程に決まっていますから、「物質」を省略して、代謝の二字で済ます例が多くなりました。

人間も含めて、すべての生物体では、新しいものが古いものと交代しています。すなわち、代謝が行われています。これは不断に起こる現象であって、これがストップすれば、すなわち死です。生命の実体は代謝だ、といってよいのです。

爪は絶えず伸びます。伸びた古い部分は、切除されます。あとから伸びた爪は、新しくつくられた爪です。爪でないものからできた爪、といってよいです。爪でないもの、つまり爪の原料から、爪はつくられます。ここに一つの科学変化があります。そして、それは、爪をつくる代謝に他なりません。代謝は、このように、生体の科学変化、化学反応です。物質構造の変化です。

車のエンジンのなかで、ガソリンと空気の混合物が燃える。これも化学反応ですが、代謝とはいいません。代謝とは、爪の形成に見られるような、生体内の化学反応に限って使われる言葉です。

私たちの皮膚には「メラニン」という名の色素があります。海水浴やスキーなどで強い紫外線にさらされて起こるいわゆる日焼けは、メラニンの増加のためです。この褐色色素の原料はアドレナリン及び「ドーパ」です。そしてまたドーパの原料は、アミノ酸「チロシン」です。

アドレナリンは副腎髄質から分泌される「神経ホルモン」であり、ドーパは神経ホルモンのノルアドレナリンの前駆物質です。ビタミンCには、このアドレナリンやドーパがメラニンになる反応を阻止する作用があります。さらにまた、濃色のメラニンを淡色のメラニンに変える作用があります。

いずれにしても、ビタミンCには、メラニン生成を阻害し、またできた色素を還元してその色をうすくする作用があるのですから、これに日焼け止めの効果があることは確かです。ただ、私たちはそれに必要なビタミンCの量を知らない、というだけのことです。