クロスリンク老化説

老化という現象を全ての人に押し付ける悪役として活性酸素が指名手配されることになってから、まだそれ程の月日は経っていません。
1969年に、活性酸素除去酵素SODが発見されて以来のことなのだからです。

活性酸素の障害作用の標的として、遺伝子と生体膜との二つがあります。
かつての実験で、飽和脂肪酸食をしたネズミの寿命が、不飽和脂肪酸食をしたネズミの二倍ほどになることが明らかになりましたが、この結果は、ラジカルによる生体膜の損傷によると説明されています。それまでのラジカル老化説を証明するものとして、この実験は位置づけられました。ご承知のように、活性酸素は、多くのラジカルの中心に存在します。

ところで、活性酸素の標的となるものは、DNAと生体膜との二つだけではありません。
大きなものとして「コラーゲン」があります。
これは繊維状タンパクであって、結合組織の主役なのです。
したがって、その分布は全身的です。
ですから、コラーゲンに異常が起こることは、合目的性の阻害になり、老化の促進に繋がるわけです。

老化学説として他に、「クロスリンク説」があります。
これは加齢とともに、細胞内のタンパク質分子の間に橋が架かることが老化の正体であるとする仮説です。
この現象は、「架橋」または「クロスリンク」と呼ばれています。
ですから、この仮説がクロスリンク老化説と呼ばれるわけです。

タンパク質は活性をもって活動するものだから、これがクロスリンクで繋がれたら、二人とか三人とかの人間が手錠で繋がれたようになって、活動が妨げられるというのがその説明です。

それから30年程の歳月を経て、その仮説のようなことが、細胞内ではなく細胞外で、コラーゲン分子の間に起きていることが発見されました。

高齢者の特徴を外見で捉えるとすれば、顔のしわ、背骨の変形などがポイントとなります。
この他にも色々な現象があらわれますが、骨折しやすいとか、からだが硬いとかいうのも高齢者の特徴です。
これらは全て、コラーゲンのクロスリンクに関係していると考えてよいです。

コラーゲンの分子を見ると、それは三本の繊維が寄り合わさった形をしています。そして、三本の繊維の末端は「テロペプチド」と呼ばれる部分になって、寄り合わさっていません。

また、正常な状態では、そのようなコラーゲン分子が、結合組織のなかではきちんと整列していることも見ることができます。
その整列が保たれるのは、クロスリンクができているためです。
クロスリンクがテロペプチドのところにあることもわかっています。
もっともそれは正常なクロスリンクのものであって、特に高齢者特有のものを示すわけではありません。

コラーゲン分子の三つ編み構造は、その強度のためにも弾力性のためにも不可欠の条件です。
そして、このような構造をとるうえで、ビタミンCが重要な役割をもっています。
ということは、ビタミンCの存在下に、コラーゲン分子に含まれる二つのアミノ酸、リジン及びプロリンに水酸基が付加されます。
これがあると、三本の単位がゆるく結合して、コラーゲン特有の三つ編み構造が、自動的につくられるのです。

ビタミンCの欠乏が「壊血病」の原因であることはよく知られています。
このとき、血管壁のコラーゲンは、三つ編みになっていないために弱く、そこから血液が漏れ出します。
これが壊血病の場合の出血です。

コラーゲンは、いかだを組んだような形の構造をつくっています。
この構造が角度を変えて重なるので強いのです。
コラーゲンが結合組織という丈夫な組織をつくることができるのは、このような理由によります。

コラーゲンは線維芽細胞の分泌物であって、細胞外にあります。
したがって、コラーゲンを骨組みとする結合組織は細胞の間にあるわけです。
私たちが経験しているように、新生児の結合組織は、みずみずしくて弱く、高齢者の結合組織は、弾力が低下して硬く、しかももろいのが特徴です。

私たちが、飛んだり跳ねたり、押さえつけられたり、あるいは関節を大きく動かしたりしても、体形が崩れることはありません。
これは、骨格があること、関節がはずれない仕組みになっていること、細胞の相対位置が安定していることによります。
これらはすべて、結合組織、したがってコラーゲンのおかげといってよいです。

コラーゲンは全身的に分布していますが、それが全て同じものであるわけではありません。
大きく分けて九種に分類されています。
皮膚や骨のコラーゲンはⅠ型です。軟骨のコラーゲンはⅡ型、血管壁のものはⅢ型、腎臓の糸球体のものはⅣ型です。

いずれのコラーゲンも、正常な形は三つ編みです。
しかし、三本を結合する力は弱いので、少し温度を上げるとバラバラに分かれてしまいます。これがゼラチンです。
ゼラチンが冷えると部分的に三つ編みができて固まります。これがゼリーです。

ところで、クロスリンクはコラーゲンだけにできるのではありません。
DNA分子の間にもそれのできることが知られています。

加齢に伴って起こる細胞の形態上の変化は、特に肝臓において顕著です。
そこでは、核が大きくなるとか、二つになるとか、染色体の数が二倍、三倍になるなどの異常が見られます。
その一方で、細胞数の減少が起こるのです。
この異常な細胞では細胞分裂ができないのにDNAの複製が起こり、それがクロスリンクをつくっています。
このような細胞の機能は正常ではありません。

ここに述べたような現象は、肝細胞ばかりでなく心筋細胞や大動脈内皮細胞などにも見られるのです。
DNA分子の間に架橋が起こるためには、接合部に異変があるはずで、それを起こすに足りるエネルギーが活性酸素から供給されることは想像に難くありません。

コラーゲンのクロスリンクが異常に多くなり、DNAに本来なかったところのクロスリンクができるなどの現象が加齢によって起こるとすると、クロスリンク老化説は老化の一面を語るものといえましょう。

 

 


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