六価クロムではない三価クロム

かつて、東京都江戸川区の日本化工という会社が、六価クロムで従業員を汚染したことで、大きな公害問題を起こしました。この六価クロムによる障害としてよく知られているのは、二つの鼻孔を仕切っている≪鼻中隔≫に穴のあく≪鼻中隔欠損症≫です。このように六価クロムは恐ろしい公害物質なのですが、三価クロムは違います。これは毒物ではなく、栄養物質です。

クロムメッキ・ニッケルクロム鋼などで知られるように、クロムは金属です。したがって、栄養物質としてみるクロムは、ミネラルに属します。近年、毛髪分析の技術が進んで、体内の微量ミネラルの量を、毛髪からみることができるようになりました。クロムは、そのような背景のなかに、大きく浮かびあがったミネラルの一つです。ただし、そのクロムは、六価クロムではなく、三価クロムなのです。

念のために申し添えますが、六価とか三価とかいうものは、≪原子価≫をさしています。クロムに限らず、全ての元素は、原子価と呼ばれる属性をもっています。その原子に、水素原子の結合点が三個のものを三価、六個のものを六価というのです。原子価が違えば、同じ元素であっても、働きが違うのが普通です。六価クロムが毒物であるのに、三価クロムが栄養物質であるのが、その例です。ビタミンEが、鉄を触媒として酸化するといっても、それは、三価の鉄の場合であって、二価の鉄は、ビタミンEに対しては、何もしません。

ところで、ニッケルクロム鋼、すなわちステンレススチールの容器で、パン酵母、すなわちイーストを培養すると、酵母菌のなかにクロムがとりこまれます。これを≪クロマックスイースト≫といいます。クロマックスイーストの特徴は、ニコチン酸クロムを含むことです。ニコチン酸とクロムの化合物を含むことです。このクロムは三価ですから、ニコチン酸クロムは栄養物質ということになります。

毛髪分析で、クロムの含有量を調べてみると、加齢とともに低下していることがわかります。これは加齢につれて発症する糖尿病とクロムとの関係を示唆するものといえるでしょう。

ところで、≪糖代謝≫という言葉があります。単糖体のブドウ糖分子が重合して、多糖体のグリコーゲンに変化するのも、糖代謝の一つです。この代謝は、肝臓で起こるものですが、これが肝臓においてスムーズに行く限り、血中のブドウ糖濃度、すなわち血糖値は一定値以下に下がることなく、コントロールされます。

このブドウ糖からグリコーゲンへの代謝は、インシュリンというホルモンに支配されています。
したがって、インシュリンが不足すれば、この糖代謝が渋滞し、結局は血糖値が高くなり、糖尿病をあらわしてきます。アメリカの統計によれば、50歳を超えた人の80%に、糖代謝の異常が認められるといいます。そしてこれが、三価クロムの不足に関係している、という見解が広まっています。ということは、三価クロムの補給によって、糖代謝の改善ができる、ということです。

三価クロムは、穀物の胚芽や納豆にあります。

わたしたちの体内でつくられるインシュリンの一日量は、平均して40単位とされているようです。糖尿病患者では、これより少ないのですが、その量が、5〜20単位に低下した人でも、50〜100マイクログラム前後の三価クロムの投与で、注射が不要になった例があるといいます。その場合、無機の三価クロムに比較して、ニコチン酸クロムが格段に効果をあげます。この形のクロムを≪耐糖因子≫(GTF=グルコーストレランスファクター)と呼びます。GTFは人体内で生理的に合成される性質のものですが、その合成能は加齢とともに低下します。そしてそれが、毛髪中クロム含有量と並行しているのです。GTFの合成は、恐らく肝臓で、そしてまた腸内細菌によって腸内で合成されているのでしょう。

ところで三価クロムの生理学的作用は何か、という問題の解答は、まだ出ていません。

インシュリンはタンパクホルモンであって、そのアミノ酸組成は、遺伝情報のなかにあります。それが解読されてできた一本のアミノ酸のくさりを≪プロインシュリン≫といいます。これはインシュリンの前駆体であって、この一本のくさりを三本に切り離し、H字型につないだものがインシュリンです。この、プロインシュリンからインシュリンをつくる代謝に、三価クロムが介在しているのかもしれません。

インシュリンが働くためには、筋肉なり肝臓なりの細胞にたどりついて、そこにくっつかなければなりません。それはすなわち、インシュリンをつかまえる装置が、これらの標的細胞になければならないことを意味します。この、つかまえる装置を、一般に≪レセプター≫(受容体)といいます。三価クロムが、レセプターの構成因子になっている、と考える余地もあります。

もっともインシュリンの合成ないし活性に関係するようなミネラルとしては、三価クロムのほかに亜鉛があります。亜鉛は、インシュリンを結晶化することによって安定状態におく役目をもっています。

いずれにしても、三価クロムは、注目すべき微量ミネラルの一つです。

 

 


整体院&ピラティススタジオ【Reformer逗子院】
神奈川県逗子市逗子3-2-24 矢部ビル2階
☎︎
050-5884-7793