車の追突という物理的衝撃力のような顕著な原因によるのではなく、無理な姿勢をしたとか、重い物を持ち上げたとかが元で、急に腰が痛くなることがあります。いわゆる「ぎっくり腰」がそれです。ぎっくり腰は腰椎の故障です。椎骨と椎骨との間に挟まった椎間板が外方に飛び出して、脊髄神経にさわる。それで、激痛が走るのです。
ぎっくり腰の病理が、こうだとすると、原因の一方は、無理な姿勢や過大な荷重にあったとしても、一方は椎間板の質にある、と考えるべきでしょう。
椎間板の材料はコラーゲンですから、問題は、タンパク質とビタミンCとに帰着します。
このどちらか一つでも不足すれば、まともな椎間板ができるはずはありません。
そういう食生活の人は、背骨に大きな力をかけることのないよう、普段から気をつけていなければなりません。
完全なコラーゲンでできた椎間板は、大きな力を受けて歪んでも、その弾力によって元に戻ります。
そういう椎間板の持ち主に、ぎっくり腰は起きにくいでしょう。
椎間板をつくる軟骨は、そこに血管のないせいがあるでしょうが、主成分はコラーゲンなので、「代謝回転」が極めて遅い。そのために、一旦劣化した椎間板の回復は容易ではないと考えられますが、それが不可能でないことは実際例で知られています。
昔は、腰が痛いと嘆くのは高齢者と決まっていました。ところが、近年は20代でも10代でも、腰を痛めることが珍しくない。それが、不完全な食生活からきていることは、疑問の余地がありません。多分それは、野菜や果物に含まれるビタミンCの量が、農薬のために激減している事情と深く関わっているでしょう。
いまの日本人の椎間板は、昔よりも弱くなっているはずです。
椎間板に多少の弾力が残っている場合は、その変形が元に戻る傾向があります。
したがって、ぎっくり腰で腰が痛いといっても、特定の姿勢を避ければ、痛みは起きない。しかし、椎間板の弾力が極端に低下していると、変形して突出した形のまま、それは元に戻らなくなる。この状態を「椎間板ヘルニア」といいます。
椎間板がヘルニアを起こしていると、突出部がいつも脊髄神経に触れているから、痛みは姿勢と無関係に四六時中持続します。これが椎間板ヘルニアの症状です。
椎間板ヘルニアに対する医療手段としては、突出部を外科的に切除する方法と、牽引とがあります。手術の場合には、椎骨の一部を切断することが必要となります。椎間板の突出部は脊髄神経のかげに隠れているから、これをどかさなければ仕事にならないのです。
牽引の目的は、椎骨と椎骨との間をひろげるようにし、陰圧をつくって椎間板を本来の位置に戻すことにあります。こうしておいてコルセットをはめ、椎骨と椎骨とが押し合う力が発生しないようにすれば、痛みは去るはずです。
こういうわけで、外科医は、椎間板ヘルニアの治療法を二つもっています。どちらかの方法でなおった患者は、背骨に無理をかけないような生活を強制されるでしょう。椎間板の質は、依然として悪いままだからです。
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